薄くて軽い色彩美が美しいうつわ「上野焼(あがのやき)」の魅力
今回ご紹介するのは、福岡県田川郡福智町の「上野焼」(あがのやき)。小倉藩主の細川家、小笠原家にわたる藩主の御用窯として、400年にわたる伝統を持つやきものです。なめらかな土から生み出される上品な薄造りに、多彩な釉薬を用いた美しい器が特徴。現在も窯元たちによる個性豊かで新しい焼き物が生み出されています。
上野焼とは?
上野焼(あがのやき)は、現在の福岡県田川郡福智町で焼かれるやきものです。茶道具として使われたことにはじまり、徳川時代になると遠州七窯の一つとして選ばれるほどの名陶として多くの作品を生み出しました。現在では、格式ある茶陶以外にも、酒器、花器、飲食器に加え、日用の品も数多く作られています。お値段は小皿で2000円代~とやや値が張りますが、すべての工程を手作りで行う繊細な職人技によって生み出される、色彩豊かで上品なたたずまいは、見てよし、使って良し、飾って良しの三拍子。毎日の生活を素敵に彩ってくれますよ。
上野焼の歴史
上野焼の歴史は、豊臣秀吉による朝鮮出兵(文禄・慶長の役)にて連れ帰られた、朝鮮人陶工の尊楷(そんかい)から始まります。尊楷を連れ帰ったのは、加藤清正もしくは毛利勝信と言われていますが、はっきりしません。
尊楷は、関ヶ原の戦いの後、1602年に豊前国(現在の北九州地方)を賜った細川忠興の小倉城入城の際に招かれ、上野(あがの)に開窯します。
これが「上野焼」の始まりです。尊楷は、上野にちなんで名を上野喜蔵高国と改めました。
細川忠興は、千利休から直接教えを受けた「利休七哲」とも呼ばれる高弟の一人。その影響もあり、上野焼は格調の高い上品な茶陶として、発展を遂げました。徳川家の茶道指南役でもある茶人・小堀遠州に「遠州七窯」の一つとして選定されています。
※遠州七窯は、上野焼の他に、志都呂焼(静岡)・善所焼(滋賀)・朝日焼(京都)・赤膚焼(奈良)・古曽部焼(大阪)・高取焼(福岡)があります。
1632年には、細川氏の国替えに伴い、上野喜蔵高国は上野から八代にうつり高田(こうだ)焼を開窯。上野焼は、新しい小笠原藩主の元に息子たちが引き継ぎ、藩窯として栄えました。
しかし、明治の廃藩置県で、藩の後ろ盾を失った上野焼は存亡のの危機を迎えます。1884年には上野焼の本筋に当たる十時 器八郎が作陶から手を引き、一時は途絶えてしまうのです。しかし、1899年に地元有志達により復興の働きかけが始まります。そのうちの一人、熊谷九八郎が1902年に田川郡の補助を受け熊谷本窯をおこし、1938年には渡源彦が渡窯を、高鶴城山が高田焼から上野氏を呼び寄せて高鶴窯を復興。
その後の第二次世界大戦を経て、高度経済成長期を迎えると、やきものの需要が高まり、多くの窯元が開窯します。現在では、上野焼としての伝統を守りながらも進化を続ける焼物として、バリエーションに富んだうつわを作り続けているのです。
上野焼の特徴
上野焼には、大きく3つの特徴があります。順に解説しましょう。
極めて軽く、薄づくりであること
藩主が使う茶陶として発展した上野焼。他産地の陶器と比べると、手にした時に非常に軽いことと、とても柔らかい口あたりを生み出す薄づくりであることが特徴です。素朴で力強い土の触感とともに、上品さも持ち合わせています。まさに茶道の「わびさび」の精神が息づいているのです。
釉薬の多用による多様な色彩
使う釉薬の種類が他の焼物に比べて多く、多彩な色彩が織りなす美しさも上野焼の特徴です。一番有名なのは透明釉、もしくは白釉の上に緑色の銅釉が流れた「緑青(ろくしょう)流し」。他にも、藁白、鉄釉、灰釉、飴釉、伊羅保釉、紫蘇手、卵手、虫喰釉、三彩釉、琵琶釉、透明釉、総緑青、柚子肌など多くの釉薬が使用されます。
基本的に絵付けはされませんが、最近では絵付けを行う窯も出てきました。色のバリエーションと相まって個性豊かな器が生み出されています。
左巴の陶印
初期の製品にはあまり見られませんが、現在の上野焼には高台内や底面付近に「左巴」と言われる左回りの渦模様が必ず入っています。
巴紋は、ろくろを左回転させながら、高台を削る際にカンナで外から内に細く削ることで入る模様です。
上野焼はどこで買える?
上野焼を買うなら、地元で買うのが一番。
上野焼の窯元
福智町を訪れたなら、まずは「上野焼陶芸館」(上野の里ふれあい交流会館)を訪れてみましょう。
上野焼協同組合
http://www.aganoyaki.or.jp/
すてきな所があったがわ
https://tagawa-suteki.jimdo.com/fukuchi/aganonosato/
作品が窯元ごとに展示されていますので、自分の好みの窯元を探すことができます。
福智町の観光パンフレット「福智町お散歩手帖」は無料です。(以下のURLからも確認できます。)
http://www.town.fukuchi.lg.jp/fukuchitown/books/1347.html
中には、全窯元を網羅した「窯元散策MAP」が。上野地区を中心に点在する窯元の特徴を見ながら散策を楽しめます。
http://www.town.fukuchi.lg.jp/material/files/group/6/pam07.pdf
上野焼春の陶器祭り
毎年4月下旬に、上野の里ふれあい交流会館と上野焼協同組合加盟の窯元にて行われる陶器市。割引がありお得に買えるとあって多くの人出でにぎわいます。当日は、最寄り駅の平成豊鉄道「赤池駅」より無料シャトルバスおよび上野の里無料巡回バスが運行。
主催:上野焼共同組合
http://www.aganoyaki.or.jp/category/news/
上野焼秋の窯開き
毎年10月下旬に行われるイベントで、春の陶器祭りとはまた違った趣向で、参加する窯元が工夫を凝らした新作を発表します。場所は上野焼陶芸館および参加窯元。同日には九州最大規模のスイーツイベント「福智スイーツ大茶会」が開催され、陶器とスイーツの魅力を同時に味わうことができます。
主催:上野焼共同組合
http://www.aganoyaki.or.jp/category/news/
toracieで扱っている上野焼の窯元
全国から素敵なうつわを買い付け、オンラインで販売するセレクトショップ「toracie 」では、以下の上野焼の窯元さんの作品を取り扱っています。
庚申窯
福岡県田川郡福智町にて、明治に途絶えた上野焼を復興した陶工のひとりである高鶴萬吉の流れをくむ窯。1971年に高鶴智山によって開窯され、現在では親子3代で作陶を行っています。少量のご注文から、類似商品の販売価格と変わらないお値段でオーダーメイドを受け付けるなど新たな取り組みも行っています。
詳細はこちらより
https://toracie.net/products/list?category_id=57
これからも拡充予定です。どうぞお楽しみに!